法律相談Q&A(1) 「内定」の法的性質―内定辞退者に対する損害賠償請求と内定取消し(人事・労務)

【Q】
(1) 大学卒業予定の学生Aに対して内定通知を出しましたが、他社による内定を理由として、内定を辞退すると言われました。当社は、学生Aに対して損害賠償請求できますか。
(2) 大学卒業予定の学生Bに対して内定通知を出しましたが、折からの不況により、内定を取り消したいと思っています。当社は、内定を取り消すことはできるのでしょうか。

【A】
(1) 損害賠償請求をすることは難しいと考えられます。
(2) 整理解雇(リストラ)が是認されるような場合であれば、内定を取り消すことができると考えられます。

(理由)
1 「内定」の法的性質
「内定」は、企業にとっては優秀な新卒者を確保するという利点があり、応募者(新卒者)にとっては卒業後の就職先を確保するという利点があり、広く社会一般で行われています。他方で、企業が一方的に内定を取り消したり、応募者が一方的に内定を辞退したりすると、相手方が不測の損害を被るため、「内定」が法律上どのような性質を有するか、議論されてきました。
最高裁判所は、「内定」の法的性質について、始期付解約権留保付労働契約との判断を示しています(最高裁昭和54年7月20日判決・大日本印刷事件、最高裁昭和55年5月30日判決・電電公社近畿電通局事件)。すなわち、内定の時期から、実際に入社するまでに、一定の期間があるという点で「始期付」とされ、入社までにやむを得ない事由が発生した場合には、内定を取り消すことができるという点で「解約留保権付」とされているのです。

2 Q(1)について
学生Aによる内定辞退は、法律的には労働契約の解約と位置づけられます。
そして、民法627条1項前段によれば、雇用期間を定めていないときには、いつでも解約の申入れをすることができるとされていますので、学生Aは、いつでも、理由がなくても、内定によって成立した雇用契約(労働契約)を解約することができます。
したがって、内定の辞退が信義則上の義務に著しく違反するという場合(例えば、学生Aが、会社に対して損害を与える目的で、内定を得たというような場合)でもない限り、損害賠償請求は認められないと考えられます(東京地裁平成24年12月28日判決参照)。
内定の辞退が信義則上の義務に著しく違反するという場合であっても、損害の立証が困難であること、損害額が多額に上るとは考えにくいこと、レピュテーションリスク(風評被害)があること等から、一般的には、損害賠償請求を控えることが賢明ではないかと考えます。

3 Q(2)について
学生Bに対する内定取消も、法律的には労働契約の解約と位置づけられます。
もっとも、内定者の場合とは異なって、会社側の解約権の行使(内定取消)は、無制限に認められるわけではありません。
そして、最高裁判所(最高裁昭和54年7月20日判決・大日本印刷事件)は、「採用内定当時知ることができず、また知ることを期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるもの限られる」として、解約権の行使(内定取消)を厳しく制限しています。したがって、一般論としては、単位が不足して学校を卒業できなかった場合、病気などで著しい健康状態が悪化したような場合、内定者に非違行為があった場合、提出書類の重要事項について虚偽の記載があった場合に限り、内定を取り消すことができると考えられます。
本件では、不況を理由に内定を取り消したいとのことですが、整理解雇(リストラ)に準じた検討をしたうえで、それが是認されるような場合であれば、最高裁判所が示した上記基準に照らしても、内定取消が適法になると考えられます。

以 上