法律相談Q&A(4) 自宅待機命令(人事・労務)

【Q】
当社のある従業員が会社の金を使い込んでいるとの内部告発があったため、事実関係を調査するために自宅待機を命じ、調査結果次第では懲戒解雇したいと思っています。当社の就業規則には自宅待機についての規定がないのですが、それでも自宅待機を命ずることはできるでしょうか。また、できるとして、自宅待機期間中、従業員に賃金を支払わないことはできるでしょうか。

【A】
会社が、懲戒処分の前置措置として従業員に自宅待機を命じることは可能です。そのような自宅待機命令は、就業規則の根拠がなくてもできますが、原則として、会社は、自宅待機期間中の賃金を支払う義務があります。

(理由)
1 従業員について懲戒処分にあたり得る事由が発覚した場合に、同人を処分するかどうかについて調査したり、どのような処分内容とするか決定するまでの間、従業員の出勤を禁じ、自宅に待機させることがあります。そのような自宅待機は、懲戒処分を行う前段階で会社の業務命令によって行われるものであり、懲戒処分ではありません。
なお、会社によっては、就業規則に、懲戒処分の1つとして「出勤停止」を設けている場合があります。出勤停止も、従業員の就労を一定期間禁止する点で自宅待機命令と類似しますが、①懲戒処分であること、②出勤停止中は賃金が支給されないこと、③通常、勤続年数にも参入されないこと等から、自宅待機命令とは異なります。

2 上記のように、自宅待機は懲戒処分ではなく、業務命令によって行われるものですので、就業規則に規定がなくても命ずることは可能です。
但し、会社は、無制限に命ずることができるわけではなく、業務上の必要性や合理性を欠く場合、又は、その必要性と従業員が被る事実上の不利益を比較して、後者が特段に大きい場合などは、業務命令権の濫用として、自宅待機命令が違法と判断される場合があります。裁判例の中には、必要性や合理性がないのに自宅待機命令が長期にわたり、その間、従業員が多大な事実上の不利益を被ったこと等を理由に、自宅待機命令は業務命令権の濫用であり、違法であると判断した例があります(東京地裁平成23年8月9日判決、千葉地裁平成5年9月24日判決等)。

3 では、会社は、自宅待機期間中の従業員に賃金を支払う必要があるのでしょうか。
従業員は、自宅待機命令に基づき自宅に待機することによって労務提供義務を尽くしたことになりますので、原則として、会社は、賃金を支払う必要があります。裁判例も、不正行為の再発、証拠隠滅のおそれ等の従業員の就労を許容しないことについて実質的な理由がない限り、会社は賃金支払を免れないとしています(名古屋地裁平成3年7月22日判決等)。

以 上